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東京高等裁判所 昭和26年(う)4685号 判決

本籍 千葉県○○郡○○町○○番地

住居 不定

無職

木○○雄こと 窃盜 木○○夫

昭和○年一月一日生

右頭書被告事件(東京地方裁判所、昭和二十六年八月二十三日判決宣言、東京地方検察庁検事正代理検事田中万一控訴申立)につき、次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

本件を東京地方裁判所に差戻す。

理由

本件控訴の趣意は、東京地方検察庁検事正代理検事田中万一の作成に係る控訴趣意書に記載の通りであるから、之を此処に引用し、右について審接する。

論旨第一点について。

本件記録を精査すると、東京家庭裁判所が昭和二十六年四月二十七日に為した「少年を東京地方検察庁検察官に送致する」旨の送致決定書の理由中には其の「罪となるべき事実」として「司法警察員事件送致書記載の犯罪事実」と記載してあり、右引用に係る司法警察員作成の同年三月二十七日付少年事件送致書には、被告人の犯罪事実として同年五月四日付本件起訴状記載の公訴事実と同一の記載があるのみであるから、東京家庭裁判所が東京地方検察庁検察官に送致したのは右起訴状記載の公訴事実についてのみであるかのように解され易いが、飜つて検察官作成の同年四月二日付東京家庭裁判所宛送致書によれば、検察官は右司法警察員作成の送致書に記載の犯罪事実乃ち前記起訴状記載の犯罪事実のみならず、同年五月二十八日付本件追起訴状記載の犯罪事実をも被告人の犯行として之を家庭裁判所に送致したものであることが明らかであるから、家庭裁判所の為した送致決定も亦、特段の事由の認められない限り右両箇の犯罪事実について為されたものと解さねばならない。蓋し、少年法に依れば家庭裁判所は検察官から送致を受けた少年を刑事処分に付すべきか、保護処分に付すべきか又は保護処分にも付する要なしと認めるべきかを決定する資料として、其の犯罪事実、罪質等を調査するに止まり、通常裁判所の如く厳格な手続制限の下に箇々の犯罪事実を審理して其の有無を箇別的に判断、確定することを主目的とするものではないと解されるからである(従つて、家庭裁判所は其の送致決定書に「罪となるべき事実」を記載するに際り、通常裁判所の判決に於ける事実摘示の如く厳密なるを要しないと解する)。而も本件記録に拠れば、前記両箇の公訴事実の間には毫も一につき刑事処分を、他につき他の処分を相当とする如き実質上の差異は認められないのみならず、東京家庭裁判所の為した前記送致決定書中の「司法警察員事件送致書記載の犯罪事実」なる語句は不動文字を以つて印刷されて居るのであり而も其の項には、右両箇の犯罪事実中特に前記追起訴状記載の犯罪事実を除く旨の記載も存しないのであつて、右追起訴状記載の犯罪事実を除外すべき何等特段の事由も認められないのであるから、同家庭裁判所が検察官に送致したのは検察官から送致を受けた右両箇の犯罪事実についてであつたと認めるのを妥当とする。

すると、原審が、前記追起訴状記載の公訴事実については、検察官に於て家庭裁判所から其の送致を受けたと認められないに拘わらず公訴を提起したものであつて、其の公訴提起の手続が規定に違反し無効であるとして右公訴を棄却したのは違法であり、論旨は此の点に於て理由があると謂わねばならない。

仍て、本件控訴は、其の余の論旨につき判断を須うる迄もなく事由があり、原判決は結局全部破棄を免れないので刑事訴訟法第三百九十七条、第四百条本文に則つて主文の通り判決する。

検事 野中光治関与

(裁判長判事 稲田馨 判事 坂間孝司 判事 三宅多大)

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